EUで「PPWR(包装・包装廃棄物規則)」の適用が始まりました。PPWRは、簡単に言えば、EUで流通する商品の包装について、廃棄物の削減・リサイクル・再利用などの基準をEU全体で統一する新しいルールです。
商品の袋、箱、ボトル、トレー、ラベル、輸送用包装など幅広い包装が対象となり、今後は「商品を安全に包めるか」だけでなく、「使い終わった後にリサイクルできるか」「包装そのものを減らせないか」といった視点が重要になります。
EUの規則ですが、日本からEUへ商品を輸出する企業にも大きく関係します。また、その企業へ包装資材を供給する企業にとっても、包装の材質や再生材含有率などの情報を把握・提供する重要性が高まります。
この記事では、PPWRについて初めて調べる方にも分かるように、制度の目的や内容、いつから始まるのか、日本企業は何をすればよいのかまで順番に解説します。

PPWRについて最初に押さえておきたいのは、次の5点です。
・EUの包装・包装廃棄物に関する新しい規則
・2025年2月11日に発効し、2026年8月12日から原則適用
・2030年前後からリサイクル可能性や再生材使用などの要件が本格化
・EU市場で流通する包装・包装済み商品が対象
・日本企業でもEU向けの商品を扱っている場合は対応が必要になる
つまり、「2026年8月から始まったが、包装そのものに大きな変更を求める規制は2030年前後から段階的に本格化する」と考えると全体像を理解しやすいでしょう。
PPWRとは「Packaging and Packaging Waste Regulation」の略で、日本語では「包装・包装廃棄物規則」と呼ばれています。正式には「Regulation(EU)2025/40」です。
これまでEUでは「包装・包装廃棄物指令」に基づき、それぞれの加盟国が国内法を整備していました。しかし、「指令(Directive)」では加盟国によって制度や運用に違いが生じるという問題がありました。そこでEU加盟国へ直接適用される「規則(Regulation)」へ変更し、環境配慮に関する要件を強化したのがPPWRです。PPWRは2025年2月11日に発効し、2026年8月12日から原則として適用されています。
ただし、すべての規制が同じ日に始まるわけではありません。リサイクル可能性、再生プラスチック含有率、包装の最小化などは2030年前後から段階的に適用されます。
PPWRが目指しているのは、包装を「作る→使う→捨てる」という一方通行の仕組みから、資源を繰り返し利用する**サーキュラーエコノミー(循環型経済)**へ転換することです。
EU加盟国には、1人当たりの包装廃棄物について2018年比で、
・2030年までに5%削減
・2035年までに10%削減
・2040年までに15%削減
という目標が設定されています。また、包装廃棄物全体のリサイクル率についても2030年末までに70%という目標が設定されています。
PPWRの方向性を簡単に整理すると、
包装そのものを減らす
→ 繰り返し使えるものは再利用する
→ 捨てるものはリサイクルしやすくする
→ 再生された資源を再び包装に使う
という循環をEU全体で作ることが目的です。
PPWRはEUの規則なので、日本国内だけで販売される商品に直接そのまま適用されるわけではありません。重要なのは、その包装や包装済み商品がEU市場で流通するかどうかです。
例えば、
・日本からEUへ食品を輸出している
・EU向けに工業製品や日用品を輸出している
・EU向け商品に使用される包装資材を扱っている
・EU市場へ商品を輸出する取引先がある
といった企業は、PPWRの内容を確認する必要があります。一方、日本国内だけで使用・販売する包装であれば、PPWRへの対応が直接義務になるわけではありません。
ただし、グローバル企業が包装仕様を共通化したり、EU向けに開発された包装が他地域へ広がったりする可能性もあるため、EUと直接取引していない企業にも中長期的な影響が及ぶ可能性があります。
なお、PPWRでは事業者をmanufacturer(製造事業者)、importer(輸入事業者)、distributor(販売事業者)、supplier(包装材の供給事業者)などに分け、それぞれ異なる役割を定めています。
実際にどの立場に該当するかは商流や取引形態によって異なるため、自社の取引を確認することが重要です。

PPWRの内容は幅広いですが、企業への影響が大きいものを中心に整理すると、主に次のような規制があります。
包装に含まれる鉛、カドミウム、水銀、六価クロムなどの濃度が制限されます。また、食品に直接触れる包装については、一定基準を超えるPFASを含む包装にも規制があります。有害物質に関する要件は2026年8月12日から適用される主要項目の一つです。
PPWRの中でも特に重要なのが「リサイクル可能な包装」です。包装は将来的に、マテリアルリサイクルできるよう設計することが求められます。
リサイクル性能は重量ベースで、
・A:95%以上
・B:80%以上
・C:70%以上
という等級で評価されます。
2030年以降は原則として一定以上のリサイクル性能が必要となり、2038年以降はAまたはBが求められます。さらに2035年以降は、単に「技術的にはリサイクルできる」だけではなく、実際に一定規模で回収・選別・リサイクルできることも求められます。
評価では包装本体だけでなく、ラベル、スリーブ、接着剤、着色、インク、コーティングなども考慮されます。
2030年以降、プラスチック包装には一定割合以上の再生プラスチックを使用することが求められます。
2030年時点では、
・PETを主材料とする一定の接触包装:30%
・PET以外の一定の接触包装:10%
・使い捨てプラスチック飲料ボトル:30%
・その他のプラスチック包装:35%
が最低含有率として設定され、2040年にはさらに引き上げられます。
企業には再生材を使用するだけでなく、品質、安全性、供給量、価格なども含めた調達体制が求められることになります。
2030年以降、包装は商品を保護するために必要な最小限の重量・体積で設計することが求められます。上げ底や二重壁、不必要な層など、商品の容積を実際より大きく見せることを目的とした包装は認められません。
また、グループ包装、輸送用包装、EC包装については、包装内部の空きスペースを50%以下にする要件も設定されています。
2030年以降、一部の使い捨てプラスチック包装は禁止されます。
対象には、
・商品をまとめるための一部シュリンク包装
・一部の生鮮青果物用ネット・袋・トレー
・飲食・宿泊施設の一部使い捨て容器
・調味料などの小袋
・宿泊施設の一部小型化粧品・トイレタリー包装
・超軽量プラスチック製買い物袋
などがあります。
PPWRではリサイクルだけでなく、「そもそも使い捨てない」という考え方も重視されています。輸送用包装、製品をまとめるグループ包装、一部の飲料用包装などには再利用目標が設定されています。
テイクアウトについても、消費者自身の容器への詰め替えや、再利用可能な容器を選択できる仕組みが求められていきます。
包装の素材構成などを消費者が理解しやすくするため、EU共通のピクトグラムを使った表示制度が導入されます。素材構成、堆肥化可能性、デポジット・リターン制度などに関する表示は、2028年以降順次適用されます。
PPWRでは、環境に配慮した資材を使えば終わりではありません。製造事業者は、包装がPPWRの要件を満たしていることを確認する適合性評価を実施し、EU適合宣言書を作成します。
技術文書には、
・包装の設計
・使用材料
・適用規格
・リサイクル可能性
・物理的・化学的特性
・試験方法や試験結果
などが含まれます。
つまり今後は、包装が基準を満たしているだけでなく、「なぜこの包装がPPWRの要件を満たしているのか説明できること」も重要になります。

PPWRは2025年2月11日に発効し、2026年8月12日から原則適用されています。ただし、段階的に規制が強化されます。
PPWRの原則適用開始。有害物質規制、適合性評価、EU適合宣言書などへの対応が必要になります。
堆肥化可能な包装や包装の統一表示などが順次適用されます。
PPWRの包装設計への影響が本格化します。リサイクル可能設計、再生プラスチック最低含有率、包装の最小化、一部使い捨て包装の禁止、再利用目標などが適用されます。
包装が実際に一定規模でリサイクルできることが求められるようになります。
リサイクル性能等級Cの包装は原則として上市できなくなり、AまたはBが必要になります。「上市」とは、ここではEU市場で商品・包装を販売・流通させることと考えると分かりやすいでしょう。
再生プラスチック含有率や再利用に関する目標がさらに引き上げられます。ただし、リサイクル設計基準などには今後の委任規則・実施規則で詳細が決まるものがあります。
そのため、2030年まで待ってから対応するのではなく、詳細ルールを確認しながら準備を進める必要があります。

PPWRを知った企業が最も気になるのは、「結局、今何をすればよいのか」という点でしょう。まずは次の5段階で整理すると分かりやすくなります。
最初に、自社の商品がEU市場で販売されているか、今後輸出する予定があるかを確認します。直接輸出していなくても、自社が供給した商品・包装資材を取引先がEU向け商品に使用しているケースも考えられます。
対象商品について、
・袋
・ボトル
・トレー
・キャップ
・ラベル
・段ボール
・緩衝材
・輸送用包装
などを洗い出します。
それぞれについて、
・材質・素材構成
・重量
・再生材の使用有無・含有率
・化学物質情報
・インク・接着剤・コーティング
・リサイクル可能性
・試験結果や仕様書
などを確認します。自社だけで分からない情報については、包装資材メーカーや仕入先へ確認する必要があります。
2030年以降の規制を見据えて、
・リサイクルしにくい複合素材になっていないか
・過剰包装になっていないか
・再生材を使用できるか
・ラベルや接着剤を変更できないか
などを確認します。
必要に応じて、モノマテリアル化も検討します。モノマテリアルとは、包装をできるだけ単一の素材で構成し、リサイクルしやすくする考え方です。
PPWRでは今後も詳細な基準が公表されます。一度調査して終わりではなく、
規則を確認する
→ 自社商品への影響を確認する
→ 包装情報を更新する
→ 必要なら資材を変更する
という仕組みを作ることが重要です。
特に食品包装では、単純に素材を減らせばよいわけではありません。食品包装にはガスバリア性、防湿性、遮光性、耐熱性など、品質を維持する重要な役割があります。多層フィルムも、それぞれ異なる特性を持つ素材を組み合わせることで高い保存性能を実現しています。
そのためPPWR対応では、リサイクルしやすさと包装本来の性能を両立することが重要です。

PPWRへの対応では、EUへ商品を輸出する企業だけでなく、包装資材を供給する企業との連携も重要になります。
包装を使用する企業が適合性を確認するには、材質や素材構成、再生材含有率、化学物質、リサイクル可能性などの情報が必要です。そのため包装資材を供給する企業には、仕入先やメーカーから必要な情報を取得・整理し、取引先へ提供できる体制が求められます。JETROも、包装材の供給事業者について、製造事業者へ必要な情報を提供することなどを役割として整理しています。
また、モノマテリアル包装や再生材を使用した包装など、将来の規制を見据えた代替資材について情報収集しておくことも重要です。
一方、PPWRへの適合性は包装資材単体だけで決まるとは限りません。安易に「PPWR適合品」と断定するのではなく、適合判断に必要な情報を正確につなぐ役割が今後さらに重要になるでしょう。
日本では食品包装をはじめ、高い保存性や機能性を実現するために多層・複合材料が広く利用されています。一方、PPWRではリサイクルを前提とした設計が求められるため、日本で一般的に使用されている包装をそのままEU向けに使用できるとは限りません。
農林水産省の2026年調査では、EU向けに食品を輸出する国内事業者などから、
・要件が不明、不透明
・要件を満たす包装材の供給者が存在しない
・適合性評価への対応が難しい
といった課題が挙げられています。
また、「国内では対応資材を用意できない」「メーカーの規格製品がなく、特注ではロットが大きい」といった回答も確認されています。PPWRはEU輸出企業だけの問題ではなく、包装資材、印刷、接着剤、再生材、リサイクルなど、日本の包装関連産業全体にも影響を与える可能性があります。
一方で、リサイクル性能と食品保存性能を両立できる包装や、必要な技術情報を提供できる企業への需要が高まる可能性もあります。
PPWRが直接適用されるのはEU市場ですが、EUへ商品を輸出する世界中の企業にも影響します。グローバル企業にとって、EU向けだけ別の包装を生産・管理することにはコストがかかります。
そのため、PPWRを基準として開発された包装が他の地域でも採用され、リサイクルを前提とした包装設計や再生材利用が世界的に広がる可能性があります。ただし、PPWRがそのまま世界共通ルールになるわけではありません。各国には異なる廃棄物処理制度やリサイクル設備があります。
EUの規制が包装設計や材料調達へどの程度波及するのかは、今後注目すべきポイントです。
PPWRによって変わるのは包装資材だけではありません。今後企業には、商品を設計する段階から、使用後の回収・リサイクルまで考える視点が求められます。
例えば、
・設計部門はリサイクル可能性を考える。
・調達部門は対応可能な包装資材や再生材を確保する。
・品質保証部門は化学物質や性能を確認する。
・物流部門は輸送包装や再利用を検討する。
・法務・環境部門は規則や技術文書を管理する。
といった横断的な対応が必要になります。
特に重要なのが包装に関する情報管理です。PPWRでは適合性評価だけでなく、技術文書を含む包装情報をサプライチェーン上で追跡することが重要になります。
今後は「何を使っているか」だけではなく、「その情報を確認できるか」までが企業の対応力になります。
PPWRは主にEU加盟国や企業などへ義務を課す制度なので、日本の一般消費者がPPWRへ直接対応する必要はありません。ただし、PPWRが目指している循環型社会は企業だけでは実現できません。
例えば、
・過剰包装の商品を必要以上に選ばない
・詰め替え商品を利用する
・繰り返し使用できる容器を利用する
・自治体のルールに従って正しく分別する
・容器の中身を使い切ってから捨てる
・再生材を使用した商品を選ぶ
・不要な使い捨て容器を減らす
といった行動があります。
企業がリサイクルしやすい包装を作っても、適切に分別・回収されなければ資源は循環しません。作る側、供給する側、使う側、回収する側、リサイクルする側がつながって初めて循環型経済は成立します。
PPWRは、EUが包装廃棄物を削減し、資源を循環させるために導入した新しい包装規則です。2026年8月12日から原則適用されていますが、リサイクル可能設計、再生プラスチックの使用、包装の最小化など、企業への影響が特に大きい要件は2030年前後から段階的に本格化します。
これまで包装には、
・商品を守る
・保存する
・運びやすくする
・情報を伝える
・商品を魅力的に見せる
といった役割が求められてきました。
今後はそこに、「使い終わった包装をどう回収し、どう再利用・リサイクルするのか」という視点が加わります。EU向けの商品を扱う企業は、まず対象商品と使用している包装を確認し、材質や重量、再生材、化学物質などの情報整理から始めることが重要です。包装資材を供給する企業についても、必要な情報をメーカーから取得し、取引先へ正確に提供できる体制が重要になります。
一方、PPWRにはリサイクル設計基準をはじめ、今後の委任規則・実施規則によって詳細が具体化される項目も残されています。農林水産省の2026年調査でも、具体的な要件について継続的な動向把握が必要とされています。
そのため、現時点ですべての包装を一度に変更するのではなく、
自社への影響を把握する
→ 包装情報を整理する
→ 最新情報を確認する
→ 必要な資材変更を準備する
という順序で対応していくことが重要です。
PPWRは単なるEUの環境規制ではなく、これまでの「包んで捨てる」包装から、「使った後まで考えて設計する」包装へ変わっていく大きな転換点の一つといえるでしょう。
今後のパッケージには「商品の品質を守る」という本来の役割に加えて、「リサイクルしやすさ」などの環境対応が強く求められるようになります。しかし、保存性などの機能を維持したまま、新しい基準をクリアする資材へ切り替えていくのは決して簡単なことではありません。
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