食品の安全性や品質管理に対する関心が高まる中、食品衛生法の改正により、2020年6月から「食品用器具・容器包装に関するポジティブリスト制度」が導入されました。この制度は、食品に接触する器具や包装資材に使用できる物質を、あらかじめ「安全性が確認されたものだけ」に限定してリスト化する仕組みです。
これまでは「ネガティブリスト制度」として、一部の禁止物質を定める方法が主流でしたが、ポジティブリスト制度では「許可されたものだけが使用可能」となり、より厳格かつ予防的な規制へとシフトしています。
本記事では、ポジティブリスト制度の基本的な仕組みや背景、ネガティブリスト制度との違い、そして制度施行により求められる対応などについて、わかりやすく解説します。すでに制度は施行されていますが、「何から対応すればよいかわからない」「どの物質が対象になるのか不安」といった方にとっても、実務に役立つ情報をまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
これまで日本では、食品用器具・容器包装に関して「ネガティブリスト制度」が採用されており、禁止された物質のみを規制し、それ以外は使用可能とする方式でした。しかし、以下のような課題がありました。
リストに掲載されていない新規物質などが規制の対象外となり、食品の安全性確保に限界がある。
多くの海外諸国(米国、EU、中国など)では既にポジティブリスト制度を採用しており、日本の制度との整合性が求められている。
これまでは業界団体による自主的な基準で安全性を担保していたが、法的な裏付けが不十分であった。
食品衛生法の一部改正により、ポジティブリスト制度の法的根拠が新設され、同時にHACCPの制度化も発表されました。食品衛生法第18条に新たな第3項が設けられ、制度の枠組みが定められました。
改正法に基づき、食品用器具・容器包装におけるポジティブリスト制度が正式に施行。合成樹脂製の器具や容器包装に使用される物質は、リストに掲載された安全性の確認されたものに限定されました。
有害物質の食品への移行を未然に防止し、消費者の健康リスクを低減する。
国際基準(コーデックスや各国の法規制)との整合を図り、日本の食品輸出の促進にもつなげる。
容器・包装材の製造・輸入・販売事業者に加え、食品製造・販売事業者にもリスト遵守を義務付けることで、より厳格な管理体制を構築する。
食品用器具・容器包装に関するポジティブリスト制度では、「安全性が確認された物質のみを使用できる」という原則のもと、以下のものが制度の対象となります。
主に対象となるのは、合成樹脂製の器具・容器包装です。具体的には以下のようなケースが該当します。
例:ポリプロピレン製の保存容器、ポリエチレン製のラップフィルム、PET製のペットボトルなど
例:紙パックの内面にラミネートされたポリエチレン、アルミ容器の内面コーティングなど
※ただし、ゴム(弾性体で熱可塑性を持たないもの)は対象外です。
合成樹脂製品の原材料のうち、以下の2種類の物質がポジティブリスト制度の対象です。
例:ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ナイロン(PA)など
例:可塑剤、安定剤、着色料、紫外線吸収剤など
これらの物質は「食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)」に収載されており、このリストに掲載されていない物質は原則使用できません。
制度の対象となる合成樹脂製の食品用器具・容器包装の例は以下の通りです。
・食品包装フィルム(例:PE製ラップ、PP製袋)
・ペットボトル(PET)
・冷凍食品やレトルト食品の包装袋
・食品保存容器(PP、PC)
・使い捨てカップやスプーンなどの食器類
・内面に樹脂加工された紙パック(牛乳パックなど)
これらの製品に使用される合成樹脂や添加剤はすべて、ポジティブリストに収載されている必要があります。
制度で対象となる合成樹脂の分類は以下の通りです。
ポジティブリスト制度は、食品に触れる器具・容器包装のうち、合成樹脂に限ってその使用物質をリスト化し、食品への安全性を確保する仕組みです。つまり、すべての材料が対象になるわけではありません。ここでは制度の対象外となる物質について解説します。
以下のような素材は、ポジティブリストの対象外です。
鉄、ステンレス、アルミニウム、銅など
ガラス、セラミック、珪酸塩、炭酸塩など
紙、木、竹、コルク、植物由来の繊維など
天然ゴムや合成ゴム(ブタジエンゴム、ニトリルゴムなど)
ただし、紙容器や金属缶の内側に合成樹脂がラミネートされている場合は、その合成樹脂部分が制度の対象となります。
以下のように食品と接触しないことが前提の物質は、ポジティブリスト制度の対象外です。
・印刷インキ(容器の外側に印刷されたもの)
・接着剤(積層材の中間層など)
・コーティング剤や塗料で、食品に直接触れない層に使用されるもの
これらの物質が食品と直接接触しない、または接触したとしても**ごく微量(0.01mg/kg食品以下)**しか溶出・浸出しないと確認されている場合、リストの適用対象にはなりません。
製造工程で使用されるものの、最終製品中には残留しないことが前提の以下のような物質も対象外です。
・重合開始剤
・触媒
・モノマー中の不純物
・反応副生成物
これらは、別途安全性評価やリスク管理の対象として取り扱われます。
農薬などが食品中に残留することで健康に悪影響を及ぼすおそれがあるため、厚生労働省が2006年(平成18年)に残留農薬に関するポジティブリスト制度を導入しました。
この制度は、安全性が評価され、国が基準を設定した農薬・動物用医薬品・飼料添加物のみを、一定の条件で食品に残留させることを認める仕組みです。
農薬・動物用医薬品・飼料添加物
国内産および輸入食品すべて(農産物・畜産物・水産物など)
安全性審査を経て、厚生労働省が基準値を設定した物質のみ
リストに載っていない物質は原則「一律基準(0.01 ppm)」を適用し、超過した場合は流通不可
2006年5月29日から施行
約800種類以上の農薬などに個別の残留基準値が設定されており、その基準以下であれば使用可能。
リストに含まれない物質は、食品中の残留が0.01 ppmを超えると「違反」として扱われる。
農薬のポジティブリスト制度において、以下の対応が食品関連事業者(生産者・輸入者・販売者など)に求められます。
作物ごとに認可された農薬・使用方法・回数・使用時期を守る。
GAP(Good Agricultural Practice:適正農業規範)に基づく栽培管理が推奨される。
必要に応じて、出荷前や輸入時に残留農薬の自主検査を実施する。
基準を超える農薬が検出された場合、その食品は販売・流通できない。
輸入業者は、海外産品が日本の残留基準を満たしているか事前確認し、安全証明書や検査データを取得・保存しておくことが推奨される。
ポジティブリスト制度の導入は、食品業界における安全性向上と国際競争力の強化に寄与します。主なメリットは以下の通りです。
1. 食品の安全性と品質の向上
ポジティブリストに掲載された安全性が確認された物質のみが使用可能となるため、食品に有害物質が混入するリスクが大幅に低減されます。これにより、消費者の健康被害を未然に防ぐと同時に、製品リコールなどのリスクも軽減されます。
2. コンプライアンスの強化
制度は改正食品衛生法に基づく法的規制であるため、適切に対応することで法令遵守を徹底できます。また、国際的な規制や基準との整合も取りやすく、海外輸出を行う事業者にとっても有利です。
3. 製品開発・工程管理の効率化
使用可能な物質が明確にリスト化されているため、材料選定や工程設計が効率的になります。不要な試験や確認作業の削減により、業務効率とコストパフォーマンスの向上が期待できます。
4. グローバル市場への対応力強化
制度は米国・EU・中国など多くの国で採用されている国際的な食品安全基準と整合しており、輸出先の規制にも対応しやすくなります。これにより、国際取引における信頼性向上と販路拡大につながります。
一方で、制度の運用にあたっては以下のような課題も存在します。
1. 事業者の対応負担
リストに掲載されていない物質の使用は認められないため、代替素材の検討や資料整備が必要となり、中小企業などには負担が大きい場合もあります。
2. 制度改正への継続的な対応
ポジティブリストは随時見直し・更新される制度であるため、常に最新情報を把握し、変更点に応じた社内手続きや表示内容の見直しが求められます。
3. 対象範囲の限定性
現時点では主に合成樹脂が対象であり、ゴム、紙、金属、木などの他素材は対象外です。今後の制度拡大に備え、幅広い素材に対する対応準備が必要になる可能性があります。
ポジティブリスト制度は、食品関連事業に関わるすべての事業者(製造・加工・輸入・販売など)に適用される法的義務です。事業規模にかかわらず、以下の対応が求められます。
使用する材料がポジティブリストに掲載された物質であることを確認し、それ以外の物質は使用しない。
製品設計の段階から、材料や製造工程が制度に準拠しているか確認する必要がある。
法令遵守は企業の信頼性に直結するため、使用材料の選定・変更時には十分な確認と記録の保持が不可欠である。
食品用器具・容器包装の製造においては、「食品衛生法施行規則 第66条の5」に基づき、以下を行うことが求められます。
・ポジティブリストに適合した原材料の使用
・設計・製造工程での危害要因の特定と管理
・異常時の対応方法の事前設定と運用
・原材料や製品のサンプル保存・記録管理
→ これらにより、安全性の裏付けとトレーサビリティの確保が可能になります。
食品用器具・容器包装の取引先(例:食品メーカー、商社)に対し、ポジティブリスト適合の証明を文書やデータで提供することが義務化。
口頭説明は不可。以下のような書類での対応が推奨されます。
例)仕様書、品質保証書、業界団体の確認書など
→ 記録に残る形式での説明義務があるため、営業・開発・品質管理部門の連携が重要です。
合成樹脂製の器具・容器包装を製造・加工する事業者は、都道府県知事(管轄の保健所)への届出が義務付けられています(食品衛生法 第57条)。
届出内容には、事業者情報、取り扱い製品、製造所所在地などが含まれます。
→ 行政による監視体制の整備・安全確保のための制度であり、未届け出の状態は法令違反になります。
期間:2020年(令和2年)6月1日〜2025年(令和7年)5月31日までの5年間
上記期間はポジティブリスト制度導入にともない、すぐに対応できない事業者に配慮して設けられた期間です。制度施行前に製造・販売・輸入・使用されていた食品用器具・容器包装と同じ内容のものは、経過措置期間中も引き続き使用可能です。
ただし、以下のような場合は対象外となり、ポジティブリストへの収載が必要となります。
・使用実績のない新しい物質を使用する場合
・添加剤の種類や量をこれまでと変える場合
・使用実績の証明(製造記録・輸入記録など)ができない場合
・器具・容器包装になっていない原材料の状態のものは、経過措置の対象にならない
※経過措置期間終了後(2025年6月1日以降)は、ポジティブリストに収載されていない物質の使用は禁止されます。
ポジティブリスト制度に違反した場合は、以下の罰則が定められています。
食品衛生法 第83条により
→ 1年以下の懲役または100万円以下の罰金
※ポジティブリスト制度は「食品の安全性を確保するためのルール」です。経過措置中でも、必要な情報の伝達や記録の保存義務は適用されますので注意が必要です。
ポジティブリスト制度とは、安全性が確認された物質のみを使用可能とする食品用器具・容器包装に関する規制制度です。2020年6月に食品衛生法の改正により導入され、従来の「禁止物質を定める」ネガティブリスト方式から、「許可されたものだけを使用する」方式へと移行しました。これにより、より厳格で予防的な管理が可能になりました。
主に対象となるのは合成樹脂製の器具や包装資材で、使用できる基ポリマーや添加剤は「食品、添加物等の規格基準」に基づいてリスト化されています。一方で、金属や紙、ゴムなどの素材や、食品に直接触れない物質は制度の対象外です。
また、農薬や動物用医薬品に関しても2006年から同様の制度が導入されており、安全性審査を経た物質のみが使用可能で、それ以外は一律基準(0.01ppm)に従います。
事業者には、使用材料の適合確認、GMPの遵守、情報伝達の文書化、届出義務などが求められます。安全性の確保に加え、国際基準との整合や輸出促進にもつながる一方、対応負担や制度改正への継続的な対応が課題です。
静岡産業社では、制度の改正にあわせたパッケージの変更をご提案します。また、容器包装以外でも食品製造に関わる資材や消耗品を取り扱っています。是非お気軽にご相談ください。