私たちの暮らしの中に深く入り込んでいる「PFAS(ピーファス)」という化学物質をご存じでしょうか?防水スプレーや調理器具、食品包装など、便利な製品に広く使われてきた一方で、分解されにくく、体内や環境に長く残留することから「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」とも呼ばれています。
近年では、水道水や食品からの検出事例が相次ぎ、人体や生態系への影響が懸念される中、国内外で規制が急速に強化されています。
この記事では、PFASの正体や問題の背景、健康・環境への影響、そして私たちができる対策までをわかりやすく解説します。
PFAS(ピーファス)とは、有機フッ素化合物のうち、人工的に作られたフッ素を多く含む化合物の総称で、「ペルフルオロアルキル化合物」および「ポリフルオロアルキル化合物」を指します。分類方法によって数に差はありますが、PFASは1万種類以上存在するとされています。
このうち、2000年頃から有害性が指摘され、製造・輸入が禁止されている代表的な物質として「PFOS」と「PFOA」があります。
PFASは、英語で「Forever Chemicals(永遠に残る化学物質)」とも呼ばれます。その理由は、自然界や生物の体内で分解されにくく、いったん生成されると蓄積されやすい特性があるためです。この性質は、PFASを構成する炭素-フッ素結合が非常に強固であることに由来します。これは有機化学において最も安定な結合のひとつとされています。
ただし、「永遠に残る」といっても、実際には分解されるまでの時間(半減期)が非常に長いという意味で使われています。たとえば、一般的な化学物質と比べてPFASの半減期は長く、
・PFOA:約5年
・PFOS:約2~3年
とされています。これらの性質から、環境や健康への影響が世界的に問題視されている物質なのです。
PFASによる環境汚染は、2000年頃にアメリカの研究者によって指摘され始めたことをきっかけに、世界的な関心を集めるようになりました。これを受け、日本国内でも各地で調査が進められ、沖縄・東京(多摩地区)・大阪などの地域で水質汚染が確認されるようになりました。
特にPFAS問題が世間の注目を集めるようになった大きな転機が、2000年にアメリカの化学メーカー3M(スリーエム)社がPFOSおよびPFOAの製造を自主的に中止したことです。これは、環境や生態系への悪影響が指摘されたことによる対応でした。
PFOS・PFOAは、もともと3M社が自社製品として積極的に製造・販売してきたものであり、この発表は産業界に大きな衝撃を与えました。
その後も国内での調査は継続され、
**2022年に環境省が発表した調査結果(外部リンク)**全国111地点の河川や地下水から、暫定目標値(1リットルあたり50ナノグラム以下)を超えるPFASが検出されました。
PFASは極めて分解されにくい特性があるため、「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」と呼ばれています。環境中に残留したPFASは、土壌から地下水へと浸透し、やがて水道水にまで汚染が拡大する可能性があると懸念されています。

(出展:
有機フッ素化合物(PFAS)について | 環境省)
PFAS(ピーファス)は、有機フッ素化合物のうち人工的に作られたペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称です。これらは自然界で分解されにくく、環境中に残留しやすいことから、「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」とも呼ばれています。中でも代表的な物質が、下記の2つです。
・PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)
・PFOA(ペルフルオロオクタン酸)
PFOS:半導体の反射防止剤、金属メッキ処理剤、泡消火剤
PFOA:フッ素ポリマーの加工助剤、界面活性剤
これらは高い安定性と撥水・撥油性を持つため、長年にわたりさまざまな産業分野で使用されてきました。
PFOSやPFOAは、その難分解性・高蓄積性・長距離移動性などの特性により、残留性有機汚染物質(POPs)として問題視されています。これにより、ストックホルム条約に基づいて以下のように分類されています。
・PFOS:2009年「制限」対象
・PFOA:2019年「廃絶」対象
・PFHxS(PFOSの代替物):2022年「廃絶」対象
日本でも「化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)」に基づき、これらの製造や輸入は規制されています。
現在でもPFASは世界中の環境中に広く残留しており、水・土壌・生物・食物連鎖を通じて、人間や動植物への影響が懸念されています。農林水産省も、食品中の含有実態の把握や農畜水産物への移行に関する調査を進めています。
PFASは以下のような性質を持ち、非常に多用途に使用されてきました。
強力な炭素-フッ素結合により、熱・化学・光・微生物分解に対して高い耐性
撥水・撥油性
優れた表面処理性
食品包装材:
ファーストフードの包装紙やピザボックスなど、耐油性が必要な容器類に使用。
衣類・繊維製品:
防水加工されたアウトドアウェアやスポーツウェア、レインコートなど。
調理器具:
フライパンや鍋などの焦げ付き防止コーティング。
泡消火剤:
特に航空機事故などに対応するための泡消火薬剤に含有。
電子・半導体製品:
精密部品の表面処理剤、反射防止剤などに利用。
PFASは耐水性や耐油性に優れた性質から、幅広い製品に使用されてきました。しかし、その性質ゆえに自然界では分解されにくく、長期間にわたって残留・蓄積されることが問題となっています。
特に、炭素-フッ素結合の非常に強固な構造により、微生物や光、熱による分解が困難です。このことから、PFASは**「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」**とも呼ばれています。
人間の体内に取り込まれた場合も同様で、一度体内に入ると長期間滞留することが研究で明らかになっています。
PFASは、以下のような健康リスクをもたらす可能性があると指摘されています。
・免疫機能の低下
・血清中コレステロールの増加
・肝機能異常(ALT上昇など)
・甲状腺ホルモンの異常
・腎臓がん・精巣がん
・出生体重の減少
・ワクチン接種後の抗体反応の低下
・神経系への影響(近年の研究)
欧州食品安全機関(EFSA)やアメリカ環境保護庁(EPA)などの報告では、特にPFOSやPFOAが健康に与えるリスクが強調されています。
・PFOA:血清総コレステロールの増加、肝機能異常(ALT値の上昇)
・PFOS:成人の血清総コレステロール増加、子どものワクチン抗体反応の低下
・共通:出生体重の低下など
これらの影響は、高脂血症・動脈硬化・糖尿病・肥満・甲状腺機能低下症といった慢性疾患のリスク増加にもつながると考えられています。
PFASは体内に摂取された後、ゆっくりと排出されるとされており、摂取量が減れば体内濃度も徐々に下がることが分かっています。しかし、半減期(体内濃度が半分になるまでの時間)は非常に長く、次のように見積もられています:
化学物質 推定半減期(年) PFOS 約3.1~7.4年 PFOA 約2.3~8.5年
このように、一度体内に蓄積すると、健康への影響が長期間続く可能性があるため、継続的な摂取を防ぐための対策が重要とされています。
日本では、PFASの中でも特に健康や環境への影響が懸念される物質について、段階的に規制が進められています。
・2010年:PFOSの輸入・製造が原則禁止
・2021年:PFOAの製造・輸入を原則禁止
・2023年:PFHxSの製造・輸入も原則禁止
PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)は、防水加工剤や消火剤などに使用されていた物質で、環境省の報告によると、動物実験では甲状腺、肝臓、神経系への影響が指摘されています。
また、水質に関する規制としては、以下のような対応が取られています。
・2020年:PFOSおよびPFOAの合計で50ナノグラム/リットル(ng/L)という暫定目標値を設定
・2021年:PFHxSを**「要検討項目」**として指定
この50ng/Lという数値は、「体重50kgの人が、毎日2リットルの水を一生飲み続けても健康影響が出ないレベル」を想定したものです。しかし、科学的にはまだ「どの濃度までなら安全か」という明確な結論には至っておらず、引き続きデータ収集やリスク評価が進められています。
PFASへの対応は世界各国で進んでおり、EUやアメリカでは日本よりもさらに踏み込んだ規制が行われています。
・REACH規則に基づき、約1万種類のPFASが規制対象
・製造・使用の大幅な制限が提案されており、「PFAS全般を禁止していく方向性」が明確です
・EPA(環境保護庁)が2021年に「PFAS戦略ロードマップ」を発表
・飲料水への規制強化
・全国的な調査・監視体制の構築
・土壌や地下水の浄化支援など、多角的な対応を展開
2024年には、飲料水中のPFASに関する新たな規制基準が導入され、さらに厳格な監視体制が敷かれています
これらの動きは、単一の物質ではなくPFAS全体に対する包括的な管理へと移行している点が特徴です。
PFASに関する規制強化を受け、民間企業や地方自治体でも自主的な対応が広がっています。
2008年:PFOA・PFOSの使用を全廃
2025年までに:すべての包装・容器からPFAS全体を全廃する方針を発表
背景には、消費者団体による調査報告で包装紙からPFASが検出されたことがあり、社会的な批判を受けたことが大きなきっかけ
2023年12月:食品用包装・容器からすべてのPFASを使用禁止へ
マクドナルド同様、PFOA・PFOSだけでなくPFAS全体を対象とした対応
PFASは食品に直接触れる製品にも使われていることがあります。代表的なのがフッ素樹脂加工のフライパンや鍋です。
調理中に高温になることで、これらの加工面からPFASが食品へ移行するリスクが指摘されています。以下のような製品が、代替として推奨されます:
・鉄製フライパン
・ステンレス製鍋
・セラミックコーティング調理器具(PFASフリーと明記されているもの)
特に最近では、「PFASフリー」と表示された調理器具も増えており、安全性に配慮した選択がしやすくなっています。
PFASを含む製品を不用意に廃棄すると、焼却や埋立処分の過程で環境中にPFASが漏れ出す可能性があります。特に以下の製品は注意が必要です:
・防水スプレー
・撥水加工された衣類や靴
・フッ素加工された調理器具
捨てる際には、自治体のごみ分別ルールや処理指針に従いましょう。分別区分がわからない場合は、市区町村の環境課などに確認するのが確実です。
世界的なPFAS規制の強化と消費者意識の高まりを受けて、企業には従来の対応を超えた戦略的かつ全社的な取り組みが求められています。特に、製品のライフサイクル全体でのリスク管理、透明性のある情報開示、そしてグローバルな規制への迅速な対応が重要です。
PFASの問題は、製品の製造・使用・廃棄のすべての段階で発生し得るため、ライフサイクル全体を通じた排出管理が不可欠です。
具体的な取り組み例として、
環境に配慮した素材を選定し、サステナブルな製品設計を導入。
代替物質への切り替えや、排出抑制設備の導入を進める。
回収システムの構築により、廃棄段階での環境負荷を最小化。
たとえばアウトドアウェア業界では、例外措置期間を活用しつつPFASフリー素材への移行を段階的に進める動きが広がっており、他業界にも参考となる取り組みです。
環境意識の高まりにより、「PFASフリー製品を選ぶ」という消費行動が浸透しつつあります。企業は、こうした消費者ニーズに誠実かつスピーディに応える必要があります。
具体的な取り組み例として、
「PFASフリー」「環境配慮型」などのラベル表示や、成分・製造背景の開示を積極的に行う。
キャンペーンやセミナーを通じて、PFAS問題と製品選びに関する啓発活動を実施。
環境への責任を明文化し、定期的にアップデートすることで透明性を確保。
こうした対応は単なるリスク管理にとどまらず、企業価値やブランド信頼性の向上にもつながります。
PFASに関する法規制は、国や地域ごとに異なるため、企業は常に最新の動向をモニタリングし、柔軟に対応できる体制を整える必要があります。
具体的な取り組み例として、
法務・技術・CSR部門をまたいだ横断的な対応体制を確立。
本社レベルで統一方針を定めつつ、各国の規制に即した対応を展開。
製造委託先や原材料供給元に対しても、PFASリスクの評価と管理を求める。
特に欧州のREACH規制では、約1万種類に及ぶPFASが規制対象となっており、今後さらに対象物質が広がる可能性があります。企業は、こうした動向をいち早く把握し、先手の対応をとることが競争優位に直結します。
PFAS(有機フッ素化合物)とは、「ペルフルオロアルキル化合物」と「ポリフルオロアルキル化合物」の総称で、自然界で分解されにくく「永遠の化学物質」とも呼ばれます。
特にPFOSとPFOAは代表的な物質で、半導体や防水製品、消火剤などに使われてきましたが、健康や環境への影響が懸念され、現在は多くの国で規制が進んでいます。日本でも段階的に製造・輸入が禁止され、水質基準も設けられました。
PFASは体内に蓄積しやすく、がんや免疫機能の低下などへの影響が指摘されており、欧米では規制の強化と企業の自主対応が進んでいます。私たちもPFASフリーの調理器具を選ぶ、適切に廃棄するなどの行動が求められます。今後、企業には製品ライフサイクル全体でのリスク管理と、PFASを使わない素材への切り替えがより強く求められるでしょう。
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