近年、日本の飲食店が海外に進出するケースが増えています。この背景には、アニメやユネスコ無形文化遺産登録による日本食ブームを背景に、寿司・ラーメン・和菓子といったメニューはもちろん、居酒屋スタイルやカフェ文化も多くの国で注目を集めています。そしてコロナ禍後の市場回復に伴う外食需要の増加があります。
また、日本国内の飲食市場は飽和状態にあり、成長を続けるためには海外市場への参入が不可欠となっていることから、多くの飲食店経営者が縮小する国内市場から海外の成長市場へと視線を向け始めました。しかし、海外進出はチャンスであると同時に、文化・法律・消費者ニーズの違いによるリスクも伴う挑戦です。
本記事では、飲食店が海外進出を検討する際に押さえておきたい7つのステップを、実践的な観点から解説します。市場調査から現地スタッフの採用、オープン後の運営まで、各段階で重要なポイントを紹介し、成功の確率を高めるためのヒントをお届けします。
- 海外出店までステップ
- STEP1:事前リサーチ
- STEP2:事業計画の立案
- STEP3:資金調達
- STEP4:店舗物件の選定
- STEP5:店舗デザイン・人材募集
- STEP6:開業手続き
- STEP7:海外出店
- STEP8:開業と運営
- まとめ
- お客様の海外進出をサポートいたします
飲食店が海外で成功するためには、国内展開とは異なる多くの要素を理解し、段階的に準備を進めていくことが欠かせません。文化や商習慣の違い、政治的リスク、法規制など、事前に押さえておくべきポイントは多岐にわたります。一方で、新たな市場を開拓することで得られるビジネスチャンスや成長の可能性も大きな魅力です。
ここからは、海外出店を実現するために必要なプロセスを7つのステップに分けて解説します。それぞれの段階でどのような準備が求められるのかを具体的に見ていきましょう。
海外での飲食店展開において、最初に取り組むべき重要なステップが「現地市場の調査」です。新たな土地でビジネスを始めるには、その国や地域のニーズや環境を深く理解する必要があります。国内と同じ方法では通用しない場面も多く、事前の情報収集が成功の可否を大きく左右します。
まずは、進出を検討している国や地域について、以下のような項目を中心に調査を進めましょう。
・市場規模や業界動向
・現地のトレンドや流行
・ターゲット層のニーズや嗜好
・食文化や宗教的背景、生活習慣
・法律・規制(外資規制、衛生基準、営業許可など)
・競合店の有無と動向
・治安や物価などの社会情勢
・外資政策、税制、労働環境などの制度的背景
進出候補の国が複数ある場合は、それぞれを同時に調査することが理想です。市場のニーズやトレンドは日々変化するため、時間差による情報のズレが判断を誤らせるリスクもあります。
情報収集の手段としては、書籍・新聞・インターネット・SNS・専門誌など幅広い媒体を活用しましょう。調査精度を高めるためには、多角的な視点で情報を集めることが大切ですが、闇雲に手を広げすぎると時間とコストがかさむため、事前に調査の目的と方向性を明確にしておくこともポイントです。
さらに、計画段階では自店の強みやターゲット像を整理しておくと、現地での調査や戦略立案がスムーズに進みます。
また、現地によっては外国企業の参入が制限されている場合もあるため、法規制の確認は必須です。制度面や労働環境、税制、インフラの整備状況、現地パートナーの有無などもあわせてリサーチしましょう。
進出先の国や地域が明確になったら、次に取り組むべきは「事業計画の立案」です。事業計画は、海外展開を実現するための設計図であり、特に資金調達の場面ではその内容が融資や投資の可否を左右する重要な資料となります。
まずは、進出の目的や方向性を明確にすることから始めましょう。「どこで」「何を」「誰に」「どのように」提供するのかといった5W2Hの視点で、店舗コンセプトを整理します。これにより、業種・立地・価格帯などが具体化し、その後の数値計画にも一貫性を持たせることができます。
事業計画の中核となるのが「資金計画」です。飲食店の海外展開においては、次の4つの要素を軸に具体的な数値を立てていきます。
投資計画:初期投資額(内装費・設備費・物件取得費など)や開業準備費の算出
売上計画:月次・年次での売上目標、客単価や回転率の想定
損益計画:売上原価(食材・飲料費)、人件費、家賃、水道光熱費、広告宣伝費などを含む利益予測
返済計画:借入金の返済スケジュールとキャッシュフローのバランス
これらの計画には、開業資金だけでなく、運転資金や予備資金も含めて余裕を持たせることが重要です。また、各項目をできる限り細分化して算出することで、計画の精度が高まり、実行段階でのブレを抑えることができます。
資金計画と並行して、現地ビジネスパートナーの有無や出資比率も検討しましょう。たとえば、現地パートナーと出資を折半する場合、自己資金の割合や返済計画も変化します。また、現地法人を設立するのか、日本法人の子会社として展開するのかによって、税制や利用できる補助金・融資制度も大きく異なります。これらは専門家の助言を受けながら、最適なスキームを選定していくことが望ましいです。
予算とは、「将来の経営ビジョンを数字に落とし込んだもの」です。モチベーションや情熱も重要ですが、それを形にするには、売上や利益などの具体的な数値目標が必要不可欠です。予算を立てることで、「何を・どれくらい・いつまでに」実行するかが明確になり、計画の進捗や達成度を随時検証することも可能になります。
事業計画をもとに、次に取り組むのが資金調達です。海外での飲食店開業は、多額の初期投資が必要となるため、計画的かつ多角的な資金調達戦略が不可欠です。
金融機関や投資家から資金を調達する際、まず重要になるのが自己資金の有無です。一般的には、開業資金の3分の1〜半分程度を自己資金で準備できていれば、融資や出資を受けやすくなります。逆に、自己資金が少なすぎると「事業への本気度」や「返済能力」に疑念を持たれ、資金調達が困難になる場合があります。
資金調達には複数の方法があり、それぞれに特性や条件があります。事業規模や企業のフェーズに応じて、最適な組み合わせを検討しましょう。
自己資金:信頼性を高める重要な要素
親族・知人からの借り入れ:柔軟な条件での資金調達が可能
金融機関からの借り入れ:日本政策金融公庫などの公的融資機関を含む
ベンチャーキャピタルからの出資:成長性が見込まれるビジネスに有効
現地企業とのジョイントベンチャー:資金と同時に現地ネットワークを獲得
補助金・助成金の活用:返済不要の資金源(後述)
中小企業やスタートアップにとって、補助金・助成金の活用は非常に重要です。返済の必要がないため、自己資本比率の維持にも寄与します。
特に活用したいのが、日本政策金融公庫の「海外展開・事業再編資金(企業活力強化貸付)」です。これはASEAN諸国や中国などに進出する中小企業を対象とした制度で、比較的柔軟な審査と条件で融資が行われます。
また、事業内容や進出先によっては、経済産業省・JETRO・地方自治体などが提供する補助金や助成金を利用できる場合もあります。公的資金は申請〜受給までに時間を要するため、事前に調査し、早めに申請を進めることが肝要です。
資金調達の制度や支援策は日々更新されており、制度ごとの要件も複雑化しています。海外ビジネス支援に詳しい専門家やコンサルタントの助言を受けながら、自社に合った資金調達スキームを設計することをおすすめします。
資金調達の見通しが立ったら、いよいよ現地での店舗物件選びに移ります。海外での物件選定は、日本と比べてはるかに複雑で、慎重な判断が求められます。
海外での出店成功において、物件の立地は極めて重要です。検討すべき主なポイントは以下のとおりです。
・賃料
・人通りの多さ
・近隣の交通機関・アクセスの良さ
・店舗面積
・建物の階数(基本的に1階が望ましい)
これらの条件がそろっている物件は理想ですが、現実的にはすべてを満たす物件を見つけるのは困難です。そのため、自店のコンセプトや予算に照らし合わせて、「譲れない条件」と「妥協できる条件」を事前に整理しておくことが大切です。
日本国内とは異なり、海外では以下のような文化的・社会的背景にも注意が必要です。
・周辺地域の治安
・地域住民の宗教や習慣
・繁華街や周辺商業エリアの傾向
これらは店舗の運営方針やメニュー構成に直結する場合があり、情報収集は現地での視察や、信頼できるビジネスパートナー・コンサルタントからの助言が有効です。
物件の契約にあたっては、日本とは異なる法律・商慣習が存在します。物件選定の段階から、現地の法律に詳しい弁護士や専門家のサポートを受け、契約内容に不備やリスクがないかを確認しましょう(いわゆるリーガルチェック)。
物件選びの最終的な基準は、自店のコンセプトとの整合性です。100%理想通りの物件が見つからなくても、「この立地だからこそ、この店舗が生きる」と言える判断軸を持つことで、現実的かつ戦略的な出店につながります。
物件が決まったら、いよいよ本格的な店舗づくりと人材確保に取り掛かります。ここでは、事業計画やコンセプトをもとに、内装・メニュー・人材の3本柱で準備を進めていきます。
店舗の設計・デザインは、お店のコンセプトを“視覚化”する重要なプロセスです。以下のような要素に対して、丁寧に計画と施工を進めましょう。
・店舗の内装、外装デザイン(雰囲気・ブランドの世界観)
・厨房機器の選定とレイアウト
・家具・什器、食器類などの備品の調達
・現地施工業者との連携
海外出店の場合は、現地の建築・施工業者への依頼が必要となります。言語や文化の違いによるトラブルを避けるためにも、信頼できる現地パートナーやコンサルタントの協力を得て、スムーズな工事進行を図りましょう。
メニュー作りや価格設定においては、現地住民の嗜好・文化・価格感覚を理解することが重要です。
・現地パートナーやスタッフと連携したメニュー開発
・地元の食材・調理法を活かしたアレンジ
・適正な価格帯の設定
といった視点が求められます。日本の味やスタイルをそのまま持ち込むのではなく、「現地に根づいたローカライズ」が成功の鍵となります。
お店の雰囲気を左右するのは、スタッフの接客力とチームワークです。開業に向けて以下のステップで人材確保を進めましょう。
・必要な人材数とポジションの整理
・求めるスキルや条件の明確化
・現地採用 or 日本国内からの派遣の検討
・現地の採用手法のリサーチ
現地採用を行う場合は、国ごとの求人文化や制度を理解しておくことが大切です。現地の人材紹介会社、求人サイト、コンサルタントの活用も視野に入れましょう。また、採用後は、スタッフ教育や店舗オペレーションの共有にも十分な時間をかける必要があります。
お店づくりと並行して、開業に必要な手続きを確実に進める必要があります。このプロセスを怠ると、開業後に営業停止や罰則といった重大なトラブルに発展する可能性があるため、慎重に対応しましょう。
「法律を知らなかった」では済まされないのが海外ビジネスの現実。
しっかりとした事前準備と専門家のサポートで、法的リスクを回避し、安心して現地でのビジネスを始めましょう。
海外で飲食店を開業する際には、日本とまったく異なるルールや制度が存在します。
たとえば、
・飲食業が外国人の参入制限業種に該当している国
・現地パートナーとの共同名義でなければ認可されないケース
・資格取得や営業許可に必要な申請書類や審査項目
など、国によって条件や制限が大きく異なります。そのため、事業計画段階で必要な手続きや条件を洗い出しておくことが重要です。
現地での開業手続きは、法律に基づいた正確な申請と手続きが求められます。以下のような対応が必要です。
・会社設立、営業許可の取得
・税務登録、労務関連の届出
・衛生、消防などの各種行政手続き
・不動産契約や事業契約に関するリーガルチェック
特に契約書類に関しては、現地の法律や商習慣に沿っているかどうかを専門家が確認する「リーガルチェック」が不可欠です。知らずに署名した契約が、将来的なトラブルや損失を招くリスクもあるため、慎重に進めましょう。
海外での開業では、現地の制度・文化・法律に精通したプロフェッショナルの力を借りることが成功への近道です。以下のようなサポートを受けることをおすすめします。
・現地の経営コンサルタントや士業(弁護士、行政書士)
・現地企業とのパートナーシップ
・行政手続き代行サービス
こうした専門家との連携により、不備のないスムーズな開業手続きが実現し、事業のスタートを安心して迎えることができます。
すべての準備が整ったら、ついに海外での店舗オープン。物件の確保、人材の採用と育成、店舗デザイン、そして開業手続きといった数々のステップを経て、ようやく現地での営業がスタートします。
宣伝・販促活動も、国や地域によって効果的な手法は異なります。日本と同じ方法ではうまくいかないこともあるため、以下の点を考慮しながら進めましょう。
・現地の消費者の行動特性や関心事をリサーチ
・SNSやインフルエンサーの活用など、現地で効果的なプロモーション手法を導入
・ローカルメディアやイベント参加による地域密着型の集客戦略
多少コストがかかっても、現地の住民に興味を持ってもらうための投資として考えることが大切です。
開業はあくまで通過点であり、ビジネスの始まりにすぎません。海外を舞台とした出店では、現地での事業継続・拡大に向けた視点がより一層求められます。オープン後も定期的に事業計画の見直しや改善を行い、常に最適な店舗運営を目指しましょう。
オープンと同時に、スタッフの教育・育成を継続することが不可欠です。現地スタッフに対しては、日本式の接客や品質管理の考え方を共有しつつも、現地の文化や価値観を尊重した教育を行い、両者のバランスを取りながらお店のサービスレベルを高めていきます。
開業後の運営が安定してきたら、次の出店や横展開を視野に入れることも重要です。現地での実績ができれば、同一エリア内や近隣国への展開など、さらなる成長戦略も現実味を帯びてきます。
近年、日本の飲食店が海外進出を増やしています。その背景には、アニメや日本食の人気の高まりや、コロナ後の外食需要の増加があります。また、日本国内市場の飽和状態から、成長を求めて海外市場に目を向ける経営者が増えています。
海外進出には、文化や法律の違い、消費者ニーズの変化などのリスクも伴いますが、それを乗り越えれば新たなビジネスチャンスが広がります。成功するためには、以下の7つのステップが重要です。
1. 市場調査:現地の市場規模やトレンド、競合、法規制などを調査し、成功の可能性を判断します。
2. 事業計画の立案:進出先に合ったコンセプトと資金計画を立て、実現可能性を高めます。
3. 資金調達:自己資金や金融機関からの融資、補助金を活用して必要な資金を確保します。
4. 店舗物件の選定:立地や条件を考慮し、店舗を選びます。
5. 店舗デザインと人材募集:現地に合った店舗設計とスタッフの採用を行います。
6. 開業手続き:現地の法律や規制に基づいた手続きを進め、必要な許可を取得します。
7. 海外出店:現地向けの販促活動を行い、成功に導きます。
8. 開店と運営:開店後は定期的に事業計画の見直しや改善を行いましょう。
これらのステップを踏むことで、海外進出を効果的に進めることができます。
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一般的な物流会社や商社とは異なり、シズサンならではの独自のサポート体制を構築し、海外においても日本と同様に柔軟かつきめ細やかなサービスをご提供いたします。現地駐在による市場リサーチをはじめ、日本および海外からの資材・食材調達、さらには出店後の店舗メンテナンスまで、ニーズに応じたオーダーメイドのサポートを実現します。
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